(ジブリ)『ゲド戦記』と宮崎吾朗監督の「父殺し」というテーマ

鈴木敏夫 責任編集『スタジオジブリ物語』
(集英社、2023年)

 500ページを超える、内容盛りだくさんな本書『スタジオジブリ物語』のレビュー第5弾です。今回は『ゲド戦記』に組み込まれた「父殺し」というテーマについてです。
 2006年に公開された『ゲド戦記』を私はレンタルDVDで観ました。宮崎駿監督の息子さんの宮崎吾朗さんの初監督作品として当時話題を呼んでいました。私は宮崎駿さんの作品は好きでしたが、その息子というだけでスタジオジブリ作品の監督ができるというのは何だか納得できない思いがありました。「できるのかな?」「いい作品が作れるのかな?」という疑問がありました。
D VDで『ゲド戦記』を観た感想は「Not Bad(悪くない)」、いや「結構良くできている」というものです。明らかに素人に作れるものではなく、プロの作品という感じがしました。作品を実際に観て宮崎吾朗監督への評価が変わりました。
 本書『スタジオジブリ物語』では『ゲド戦記』の原作者ル=グウィンからジブリが映像化の許諾をもらった経緯が詳しく書かれていました。1980年代に駿監督が原作を読んで映像化を打診したが許諾を得られなかったこと。駿監督が『もののけ姫』や『千と千尋の神隠し』などのヒットを飛ばし、国際的な名声が高まった後、原作者ル=グウィン側から映像化を希望する電話があったこと。ところが、駿さんは高齢を理由に自ら監督にならず、若手監督を育てるジブリの方針から吾朗さんが監督に指名されたこと。これにル=グウィンさんが難色を示したが、ようやく許諾を得られたこと、という経緯です。
 また、『ゲド戦記』の映像制作に入る段階でもジブリ内のスタッフからも吾朗さんに監督が務まるのかという疑問の声が、父の駿さんも含めて、上がっていたことも触れられていました(324ページ)。
 吾朗さんは、こういう疑問の声を跳ね返したと言えるでしょうか。それは私には分かりません。が、『ゲド戦記』のストーリーには冒頭から主人公のアレンが父を刺す「父殺し」のテーマが描かれます。ジブリも「父さえいなければ、生きられると思った。」というキャッチコピーで、この映画の宣伝を行いました。そして、この「父殺し」というテーマの強調には、鈴木敏夫プロデューサーさんのアドバイスがあったのだそうです(336ページ)。
 偉大な父をもつ吾朗さんが、父と同じ道を歩んでいくことは並大抵のことではないと想像します。今後も吾朗さんの活躍に注目していきたいと思いました。

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