(ジブリ『紅の豚』制作逸話)鈴木敏夫プロデューサーは質問の達人

鈴木敏夫 責任編集『スタジオジブリ物語』
(集英社、2023年)

 500ページを超える、内容盛りだくさんな本書『スタジオジブリ物語』のレビュー第7弾です。今回は『紅の豚』制作逸話です。
 宮崎駿監督の『紅の豚』は1992年公開の作品です。顔が豚、体は人間の主人公ポルコが飛行機を操縦します。本作はもともと30分程度の小品として企画されたもので、宮崎さんから企画が出されたのが1989年の夏。気軽な小品を作って、スタッフをリフレッシュし、次回作へのステップとするというねらいがあったそうです(108ページ)。
 また、この時期からスタジオジブリが、作品制作ごとに外部からスタッフを募るというそれまでの方式をやめて、社員制度を導入して毎月給料を支払う必要が出てきていたこと。そして、『紅の豚』には飛行機シーンがたくさん出るのは飛行機の機内上映を想定してJALと話し合い、一種のタイアップを模索しながら制作が進行していったそうです。こういう裏事情はアニメ業界ではよく知られたことなのかもしれませんが、私は本書を読んで初めて知りました。
 そして、制作段階の1コマ。宮崎さんの絵コンテ(映画設計図)を読んだ鈴木敏夫さんは、おもしろくないと感じて次のような質問を投げかけたそうです。

「どうしてポルコは豚なんですか?」

この問いに宮崎さんは「どうして豚なんでしょうね」と自問を始め、その後スタッフにこの質問を投げかけもしたそうです(112ページ)。そして、スタッフの1人から「自分で自分に魔法をかけたんじゃないですか」と言われ、宮崎さんはこれを「答え」としました。
 すると、鈴木さんは、

「じゃあ、なんで魔法をかけたんですか」

と問いかけたそうです。このような問答から物語の設定が深まり、固まっていった様子が分かりました。
 スタジオジブリ内での対話、ディスカッションの様子がよく分かる逸話だなと思いました。そして、プロデューサー鈴木さんの質問力が宮崎監督の仕事を前へ進めたことに感服してしまいました。

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