団時朗さん(郷秀樹役)のご冥福をお祈りします――「ウルトラ兄弟」という1970年代のコンセプト

『語れ!ウルトラマン』編集部『語れ!ウルトラマン 兄弟激闘編』
(KKベストセラーズ、2013年)

 

 2023年3月、団時朗さん(『帰ってきたウルトラマン』郷秀樹役)が亡くなられました。少年時代の憧れでした。心よりご冥福をお祈りします。(2023年3月追記)  

 2022年に『シン・ウルトラマン』を観ましたが、「ヒーローと言えば、ウルトラマン」という世代です。といっても、ものごころがついた頃にテレビのリアルタイムで放送していたのは1980年の「ウルトラマン80(エイティ)」で、それ以前のウルトラマンシリーズは再放送で見ていました。私は「ウルトラマン80(エイティ)」よりも、それ以前のシリーズでウルトラ兄弟たちが力を合わせて怪獣や異星人と戦っているほうが好きでした。エースやタロウのピンチを兄さんたちが救ってくれる回は最高に胸が熱くなりました。書店で本書『語れ!ウルトラマン 兄弟激闘編』を見つけた時、そういえば「ウルトラマン80(エイティ)」には「兄弟」の要素がほぼなかったということに気付きました。

初期ウルトラマン・シリーズには兄弟概念がなかった

 ウルトラマンが放送開始されたのは1966年ですが、本書を読んで気付いたのは、初期のウルトラマンシリーズに「ウルトラ兄弟」という概念はなかったということです。本書には「ウルトラ兄弟」というコンセプトが導入されていく様子が詳しく記されています。それは1971年の『帰ってきたウルトラマン』が放送されていた時期に、「学年誌で兄弟という関係性が生まれ」たとされています(28ページ)。おそらくこの雑誌は、当時、小学館から出ていた『小学○年生』という雑誌のことだと思います。そして、『帰ってきたウルトラマン』第18話にウルトラセブンが登場して新たな武器ウルトラブレスレットを与えます。さらに第38話では初代ウルトラマンとウルトラセブンが登場して、ナックル星人に処刑されかけの「新マン」を救うべく「ウルトラの星作戦」を敢行します。『帰ってきたウルトラマン』の劇中では単に「ウルトラマン」と呼ばれていましたが、初代ウルトラマンと区別するために「新マン」という呼び名が使われ、後に「ウルトラマン・ジャック」という呼称が使われるようになります。

バット星人は計画を解説した

 そして、『帰ってきたウルトラマン』最終話で敵のバット星人が「ウルトラ抹殺計画」を解説して、ゾフィー、初代マン、セブンを「ウルトラ兄弟」と総称しました。この評判が良かったのでしょう、次の『ウルトラマンA(エース)』は第1話から「ウルトラ兄弟の5番目」を名乗っています。
 本書28ページから33ページには「永遠に語り継がれるウルトラ兄弟の物語――その栄光ある助走」という年表があり、私にとってとても貴重な情報でした。たとえば、『ウルトラマンA(エース)』第5話では「客演兄弟」がゾフィー、「登場怪獣」がアリブンタ、ギロン人となっていて、2対2の「タッグマッチ」だったことがひと目で分かります。それから『ウルトラマンA(エース)』第13話、第14話は「客演兄弟」ゾフィー、ウルトラマン、セブン、ジャックで、「登場怪獣」はバラバ、エースキラーでした。これなどを見ると、怪獣の方が少数で、ウルトラ兄弟の方が数的優位だったわけで、バラバとエースキラーの強さの方が引き立っていたことも分かりました。

5対1でも負けてしまう

 それから『ウルトラマンA(エース)』第26話の題名は「全滅!ウルトラ5兄弟」となっていて、第27話の題名は「奇跡!ウルトラの父」です。そうです、ついにウルトラの父まで登場して「家族」というコンセプトまで導入されたのです。この2話の「登場怪獣」はヒッポリト星人だけです。いかにヒッポリト星人が強かったのかということも分かりました。
 これと同様のことはほかにもありました。『ウルトラマンタロウ』第34話は「ウルトラ6兄弟最後の日!」という題名で、「登場怪獣」はテンペラー星人だけ、さらに『ウルトラマンタロウ』第40話「ウルトラ兄弟を超えてゆけ!」の「登場怪獣」はタイラントだけでした。テンペラー星人とタイラントの強さに感心すると同時に、だんだん「ウルトラ兄弟は弱かったのでは?」という疑問も頭をよぎってしまいました。スミマセン。

時代背景が作品に影響する

 さて、『帰ってきたウルトラマン』以降の1970年代ウルトラマンシリーズに「ウルトラ兄弟」、そして「家族」というコンセプトが導入されていったことには、次のような時代背景があったと本書では指摘されています(18ページ)。
・70年代初頭に高度経済成長に終わりの兆しが見え、公害問題が本格化し、60年代の科学万能思想の時代が終焉して、人びとが現実的に物事を考えなければならなくなってきたこと。
・当時のテレビ番組はホームドラマやスポ根ものが全盛期を迎えていたこと。

 たしかに、60年代の『ウルトラマン』では「科学特捜隊」という地球防衛チームが活躍していました。ウルトラマンを倒したゼットンを科学特捜隊が倒すというストーリーは今考えても勇気づけられます。

 ところが、『帰ってきたウルトラマン』以降の70年代シリーズは基本的な雰囲気が変わっているように思います。その最大の要素は「兄弟」というコンセプトだと私は感じました。ウルトラマンのシリーズに兄弟・家族の要素が取り入れられたのは、ホームドラマの影響と、兄弟に救われたり見守られたりしながらA(エース)やタロウが成長していくスポ根ものの影響があったということだと思います。
 また、『ウルトラマン・レオ』にもアストラという双子の弟がおり、兄弟のコンセプトが受け継がれ、さらにレオは空手というスポ根ものの要素で戦っています。本書の指摘には納得する部分が多くありました。


 数年前、レンタルで『帰ってきたウルトラマン』と『ウルトラマンA(エース)』を全話観直してみましたが、大好きなシリーズなので楽しめましたし、新たな発見もありました。『シン・ウルトラマン』も良かったです。今度は60年代の『ウルトラセブン』を観直してみようかと思います。

「ウルトラマンは裸か?着衣か?」――それは重大な問題だ!

柳田理科雄 著『金の空想科学読本』(KADOKAWA、2011年)  ウルトラマンやガンダムなどテレビのヒーローものに夢中になった時期がありました。いや、今でもけっこう好き…

Follow me!