泥沼の人間関係を避けるコツとは?
神岡真司 著『嫌いなヤツを消す心理術』
(清流出版、2016年)
多くの人が人間関係の悩みをもっていると思います。学校や会社などでウマの合わない人、ソリの合わない人と付き合わなければならない場合、どのようにしたらよいのでしょうか。人間関係を円滑にすることは生きていくうえで重要だと思い、本書を読んでみました。
本書の著者、神岡真司さんはビジネスに役立つ心理術を研究され、法人を対象としたセミナーやコンサルティングの活動をされています。
「人を嫌いになること」を怖れない
本書を読んで、まず人間関係の基本前提として「人を嫌いになることを怖れすぎることはない」というメッセージが記されており(25ページ)、かなり気が楽になりました。人を嫌うのは良くないのではないかという考えがあったからです。しかし、神岡さんは、人を嫌いになることは、敵の攻撃から身を守るための防衛本能で、嫌いな人が一人もいないと言う人がいたら大ウソつきだと述べています。
次に、誰もが嫌いになるタイプの人がどういう人なのかが例示されていて、これも分かりやすかったです。そのタイプとはたとえば以下のような人です。
①すぐに怒り出す人
②人の意見を否定して自分の意見にこだわる人
③部下のミスをネチネチ攻める上司
④悪口への同調を求めてくる人
⑤乱暴な動作や大きな音を立てて、周りを威圧する人
⑥「飲み会」などにわざと誘わず、仲間外れを画策する人
⑦被害者意識が強く、つねに相手に責任転嫁する人
神岡さんからすると、これらの人の本質は①許容度が小さい、②自己中心的、③自己保身をしたい気持ちにとらわれている、④自分一人が脅威を感じていることが不安、⑤精神的に幼稚で甘えている、⑥相手に嫉妬(しっと)し、相手の不幸を画策している、⑦自分の非を認めるのが怖い、という人たちです。私はこういったタイプの人たちを何人か見たことがありました。
スルーする
こういったタイプの人に対する対処法が本書には書かれていて、とても勉強になりました。大切なのは「スルーする」ことです(44ページ、57ページ)。それはなぜかと言うと、上記のようなタイプの人たちは、誰に対してもわがままを押し通そうとしますし、反撃すると膨大なエネルギーを消耗して、ともすると泥沼の関係になってしまいます。そして、誰に対しても攻撃的なのですから、自分だけが「敵の標的」としてクローズアップされる必要はないというのが神岡さんのアドバイスです(56ページ)。これはとても大事だと思いました。
アメリカに伝わる合理的な人間関係テクニック
そこで提案されているのが「アサーティブな対応」です(57ページ)。英語の“assertive”とは「断言的な」とか「積極的な」という意味がありますが、神岡さんは「アサーティブな対応」を「対等な関係における自己主張」と解釈し、アメリカで1950年代から広まってきた対人関係の合理的な方法だとしています。人間関係を支配と従属の関係でとらえたり、差別を行ったりするのではなく、対等にふるまい、お互いがウィン・ウィンの関係を保ち、「あなたもOK、わたしもOK」という自立的な関係を目指すものです。
DJポリスのように
無視したり、挨拶をしなかったり、目を合わせなかったり、あるいはお世辞を言ったり、媚(こ)びたりするのは相手に対して反撃をする行動なので「アサーティブな対応」ではありません。もちろん、やられっぱなしでは相手を増長させるので、最初の段階では不快だということを示す必要はあります(125ページ)。ただ、「アサーティブな対応」は、敵・味方に分けて考えるのではなく、どちらかというと「中立的」(ニュートラル)」です。相手のペースに乗せられることなく、堂々と落ち着いた態度で冷静に、敵対意識がないことを相手に伝えていく戦略をとります。少し前に話題になったDJポリスのマイク誘導はよいお手本だと神岡さんは述べています(70ページ)。
第三者的な目で
本書では「アサーティブな対応」のトレーニング法が示されていて、これも大いに参考になりました。「嫌いな人」からの攻撃を受ける場面をイメージし、アサーティブに切り返す自分の姿を、頭の中で何度もシミュレーションすることが大事だと神岡さんは言います(70ページ)。ここで大事になるのが、自分と周りの人間関係を第三者的な目で観察することです。これは「メタ認知」と言われます(97ページ)。そもそも、「あの人は自己中心的」と指摘を受けるようなタイプの人はメタ認知能力が低い人です。自分がこういう行動をとっていると、積もり積もって低い評価を受けるという予測能力が欠けている人です。そういう人と同レベルで対応していると泥沼の人間関係になってしまいます。そうではなく、第三者的な目で観察して、自分の行動を改め、同時に相手は小さい存在でしかないと考えることが「アサーティブな対応」では重要になります。
意識の中で「ポジティブ変換」
さらに、「ポジティブ変換」という心理術も興味深いものでした。それは、「自己中心的」な人の言動は不快なものですが、「プライドが高い」「孤高」「マイペース」と少し言い換えることで、相手に対する意識を変化させるというものです。「人の悪口を聞かせる」は「同調誘発力にたけている」、「すぐに怒鳴る」は「圧倒的制圧力を有する」、「人を平気で馬鹿にする」は「負けず嫌いで自信家」などとズラすことが可能です。自分の意識の中で相手の存在を小さなものにしていく手段として、この「ポジティブ変換」が提案されています。
本書で提案されている「アサーティブな対応」は学校や職場でのいじめ対策としても有効ではないかと感じましたので、是非一読をおススメします。暴君のような人がいた場合、自分だけが「敵の標的」としてクローズアップされる必要はないという本書の指摘はとても重要だと感じました。かといって、他の人がいじめの標的になるような「いじめの連鎖」が起こるのは良くないと思いますので、多くの人が「アサーティブな対応」を身につけ、暴君の攻撃をみんなでスルーしながら学校場面の1年から3年を乗り切って卒業できるようになると良いのかもしれないと思いました。