情報収集の読書か? 味わう読書か?

齋藤孝 著『究極 読書の全技術』
(KADOKAWA、2022年)

 読書術については樺沢紫苑さんの『インプット大全』やアバタローさんの『OUTPUT読書術』などの本を読んで、自分がそれまで知らなかった方法を得ることができました。今回は齋藤孝さんの『究極 読書の全技術』を読んでみました。

 本書の著者、齋藤孝さんは教育学、コミュニケーション論の研究者です。『声に出して読みたい日本語』というベストセラー本の著者であり、NHK Eテレの「にほんごであそぼ」という番組の総合指導などもされています。
 本書は齋藤さんが実践し、仕事にも活用している読書術をあますところなく公開してくれている本です。本書を読んで私が注目し、自分でもやってみたいと思ったのは以下の3つの読書術です。

1.「役に立つ読書」と「快楽としての読書」を分ける

 齋藤さんは、本の種類によって読み方を変える必要があり、大きく分けると「役に立つ読書」と「快楽としての読書」に分けることができると述べています(67ページ)。
 「役に立つ読書」とは、得た情報や知識を実際に活用するための読書で、代表例は新聞です。新聞は事実を正確に伝えようとしており、文章を「味わう」とか「解釈する」という読み方には向いていません。新聞の他には、テーマが絞られている新書や、いわゆるハウツー本も時間をかけて文章を「味わう」必要はありませんので、速読を活用してすばやく情報や知識を得ることを目的に読書すればよいことになります。
 これに対して「快楽としての読書」は、文学作品など、作者のつくり上げた世界観にどっぷり浸かって「味わう」ことが重要になり、速読には向きません。フルコースの料理を10分で食べてしまうようなもの(68ページ)という比喩は「なるほど」と思いました。
 そして「役に立つ読書」と「快楽としての読書」の中間に位置するのが軽めのミステリーだと齋藤さんは指摘しています(69ページ)。文章はそれほど味わいがあるというわけではないが、ストーリー展開が面白いという種類の本です。

2.「逆算読書法」

 齋藤さんは明治大学文学部の教授として多くの学生を指導しているほか、メディア出演、本の執筆など忙しい毎日を送っておられますが、そんな生活でも読書を続け、多い日には1日10冊以上を読破するそうです(3ページ)。それだけ速読の技法を身につけておられるということだと思います。齋藤さんが「逆算読書法」と名付けている方法が速読の一種だと思います。この方法は、目次を眺めて結論部分らしき章をすばやく見つけ、その章の小見出しをチェックして、その章から読み始めることで著者の主張や言いたいこと(結論)を先に読み、結論をしっかり理解するという目的から逆算して他の章を読むという方法です(104ページ)。この方法は速読の一種ですが、大事なところを外さないでしっかり読むということも考慮しているので、精読の一種と考えることもできます。これは小説の読み方には向きませんが、論説文の読み方には大いに活用できる方法です。

3.「引用ベストスリー方式」

 齋藤さんの読書術でユニークだと思ったのは「引用ベストスリー方式」です。これは、読んだ本の中で、気に入った文章を3つチェックしておき、人との会話やエッセイ、日記などに引用しておくことで、読書記録の代わりとしておくという方法です(172ページ)。こうすることで、読書で得たものがしっかり自分の中に蓄積されるというのが齋藤さんの考えです。よく読書記録として読後の感想を一行でも書いておくとよいということが言われていると思いますが、3つの引用というのは面白い方法だと思いました。

なぜ読書が必要なのか?

 齋藤さんは、急激に変化していく現代社会では、学生時代に身につけた知識や情報だけでは対処しきれなくなっているのが実情で、読書によって情報や知識を自分のものとして仕事に応用していくことがどうしても必要になると述べておられます(5ページ)。また、読書で言語能力と思考力を身につけることは、ニーズを把握し、よいアイデアを提案する鍵にもなります(270ページ)。

 本書は、情報や知識を仕事に活かす「役に立つ読書」とともに、文学作品を味わう「快楽としての読書」の仕方が紹介されており、「趣味と教養のための読書案内」を目指す本ブログとしても是非オススメしたい一冊です。

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