書き手は料理をし、読み手は食事をする
外山滋比古 著『知的文章術』
(大和書房、2017年)
小熊英二さんの『基礎から分かる論文の書き方』などレポートや論文の書き方についての本を読み、また、エッセイ(随筆)についても中谷彰宏さんの『1秒で刺さる書き方』を読んで、レポート・論文とエッセイの書き方の違いに少し驚きました。今回は、レポートやエッセイを含めた文章全般の書き方について解説されている本書を読んでみました。
1. 文章は料理のようなもの
本書の著者、外山滋比古(そとやま・しげひこ)さんは英文学者、言語学者で『思考の整理学』という本の著者として有名です。
本書を読んで面白かったことの1つ目は、外山さんが「文章は料理のようなもの」と述べているころです(10ページ)。以前読んだアバタローさんの『自己肯定感を上げるOUTPUT読書術』では「読書は食事のようなもの」という考えが述べられており、この2冊がペアのように感じられて面白かったです。書き手は料理をし、読み手は食事をする、というのは正しいのかもしれないと思いました。
外山さんによると、文章は他人に読んでもらうものであり、料理人は味見や毒見もするが、食べてくれる人がいることが前提となります(12ページ)。そして、何を言っているのか分からないのは、スープなのか、みそ汁なのか分からないようなものだし、見た目だけでなく、相手のことを考えて、栄養があり、ハラもふくれるように、しっかりした内容があるのがよい料理=文章です。そして、味がおいしいということが最も大切で、これはどんどん「食べたくなる」=「読みたくなる」のが理想的です。
2. 新聞記者は毎日書くから上達する
面白かったことの2つ目は、文章がうまく書けるようになるコツは、とにかく毎日書くことだと外山さんが述べていることです(56ページ)。その証拠として、新聞記者は毎日原稿を書くから文章が上達することが挙げられ、そして、「新聞は大人にとっての文章読本、作文のテキストだと思う」と述べられています。これには「なるほど」と思いました。私も毎日のように新聞を読みますが、「作文のテキスト」というつもりで読んだことは今までなかったので、これから新聞記事に対する見方が変わりそうです。
3. テーマを一言で言えるか?
本書を読んで面白かったことの3つ目は、「何を書くのかがはっきりしていないといけない」という外山さんの考え方で、文章の主題(テーマ)を「一口に言えること」、「ひとつのセンテンス(文)で表現できる」ことが大事だということです(126ページ)。考えを書き出して、書く内容がいくつもある状態からひとつずつ切り捨てて、2つか3つを残し、それを組み合わせて、一口で言える状態までもっていくことが文章を書く準備として重要だと外山さんは述べています。これはとても大事なことを教えてもらえたと感じました。
4. 発表すると文書の腕が上がる
本書を読んで面白かったことの4つ目は、文章上達のためには書いたものを発表するのがいいということです(185ページ)。発表の形式として、日記は読んでくれる人を自分だけと想定し、手紙は相手1人を想定している。そして、もっとたくさんの読者を想定しているのが雑誌で、かつては5人ぐらいの有志を集めて同人雑誌を作ることが多かったそうです。明治期から戦後にかけての時期でも、同人雑誌を作る文化はあったと思います。本書では述べられていませんが、今はインターネットの時代ですから、SNSやブログがかつての同人雑誌のような役目を果たしているのかもしれないと思いました。
本書は英文学者、言語学者の外山滋比古さんが、文章上達のコツを解説してくれています。エッセイ風の文体で、親しみやすく分かりやすく、語りかけるように書かれているのが読んでいて心地よい本だと思いました。文章が料理に例えられていて、とても面白く読めました。