カーナビのように作動する脳の網様体賦活系(RAS)
アラン・ピーズ/バーバラ・ピーズ 著『新板 自動的に夢がかなっていくブレイン・プログラミング』
(サンマーク出版、2022年)
以前、樺沢紫苑さんの『アウトプット大全』を読んで、「目標を書く」ことの大切さを知りました。また、樋口圭哉さんの『やりたいことを何でも叶える目標達成のための手帳術』という本も読み、やりたいことを100個書き出し、カテゴリーごとに分類するという方法を学びました。今回は「ブレイン・プログラミング」という視点から「目標を書く」ことの重要性について述べた本書を読んでみました。
本書の著者、アラン・ピーズさんとバーバラ・ピーズさんはオーストラリア在住の講演家、著述家です。日本でも『話を聞かない男、地図が読めない女』や『嘘つき男と泣き虫女』という本が発売されており、書店で見かけたことがありました。
本書を読んで特に勉強になったのは以下の5つです。
1. 網様体賦活系(RAS)はまるで「GPSシステム」と「検索エンジン」
本書の最初の章は、脳の網様体賦活系(RAS)の解説から始まります。これは20世紀の中ごろから生理学者たちが明らかにしてきたもので、脳の奥の方にあって、警戒感や意欲、眠りから目覚めさせるなど人間の意識をコントロールする仕組みです(29ページ)。RASは脳に入るほとんどすべての情報を中継して、何に注意を向けさせるか、どれぐらい関心を呼び起こすか、どの情報をシャットアウトして脳に届かないようにするかを判断します。
私がとても興味をもったのは、このRASはまるで、車のナビについている「GPSシステム」やパソコンの「検索エンジン」のような働きをするという本書の指摘です(35ページ)。つまり、脳のRASは、自分の名前だけでなく、自分を危険にさらすもの、知るべき情報などを敏感に察知します。そして、
目標さえ決めれば、RASはそこへたどりつくための情報を片っぱしから集めはじめる。道を間違えても、すぐに行くべき道を教えてくれる。(37ページ)
パソコンの検索エンジンや車のナビはとても便利で、使わない日はないほどですが、そのようなものが脳の中に備わっていると考えると楽しくなってしましました。
2. 思考や関心はスパゲティのように絡まっている。「紙に書くこと」で整理できる。
RASは関連する情報を収集してくれるのですが、そうすると「何を書き込むのか?」が問題となります。本書を読んで「なるほど」と思ったのは
「考えていることや、興味があることは、頭の中でスパゲティのように固まっている。1つの考えが、ほかのたくさんの考えとからまりあい、それだけを単独で考えるのは難しい。」(67ページ)
という指摘です。よく「頭がこんがらがる」という表現が使われますが、長いひも状のものが絡まり合うイメージで、考えの混乱を言い表してきました。それはお皿の上でスパゲティが絡まり合っているのと同じ状態なのだと思いました。
さて、本書では、「紙に書く」ことが、この状態の解消に役立つと述べられています。その科学的なエビデンスとしては、アメリカのドミニカン大学の心理学的な実験が紹介されています(68ページ)。そして、本書の著者のアランさんとバーバラさんの経験でも、リストに手書きで項目を書き出すことで、書いたことに関係する情報が、どこに行っても目につくようになり、人生のさまざまな目標を達成できたそうです。本書には随所に彼らの目標達成の様子が触れられていて、すばらしいなと思いました。
3. 相手にも意見を言う権利はあると認める
目標を紙に書き出して、その達成に向けて行動を始めると、周りの友人や親戚の中から、その行動を批判されたり止めようとしたりする人が出てくることがあります。著者の2人は、それを何度も経験しているので、本書ではそれをかわす方法が紹介されていました。その方法とは①相手の言い分の正しい部分は「たしかに、その通り」と認め、②相手にも意見を言う権利はあると認めることだと著者は述べています(151ページ)。この考えは、本書を読むまで私の中にはありませんでした。すばらしい知見を得たように感じました。
4. イメージトレーニングはとても重要
スポーツ選手には常識になっているようですが、何かを成し遂げようとする場合、それができたシーンを想像する「イメージトレーニング」の効果は絶大だと本書には書かれています(197ページ)。これには重量挙げや陸上競技など、いろいろな研究成果がエビデンスとして積み上げられているそうです。本書では、イメージトレーニングをスポーツ以外の目標達成、たとえばスピーチの成功などにも応用しようとしていて、とても面白いと思いました。
5. 笑ってストレス解消できるのは「エンドルフィン」の作用
本書には、目標達成のために行動する過程での挫折やストレスについての対処法が書かれています。特に気になったのが、「2分間笑うとストレスホルモンは減る」という指摘で、笑っている時には、天然の麻酔剤である「エンドルフィン」が脳から分泌されて体内に放出されるということです(307ページ)。
本書には「笑いのない生活を送る人は早く老け込む」と書かれていました(312ページ)。とても大事な指摘だと思いました。笑って過ごすようにしたいものです。
近年、脳内物質についての研究が進展しているそうで、20世紀前半に自己啓発の本を書いたナポレオン・ヒルは「頭のなかで考えたことを、心から信じられるなら、人はそれがどんなことでも達成できる」と述べたそうです(26ページ)。
彼がこれを書いた時代にはRASや「エンドルフィン」の作用は解明されていませんでした。ナポレオン・ヒルの考えは脳科学的にも裏づけられるというのが本書の立場です。たんに「願えば叶う」というだけではなく、「書き出せば、願いは叶う」ということを脳科学的な研究成果や著者自身の経験をもとに述べたのが本書だと思いました。