「キャンプを防災に活かす」という発想
日本放送教会 NHK出版『たのしく防災! はじめてのキャンプ』
(NHK出版、2019年)
コロナ禍のレジャー
コロナ禍で「密」になりにくいレジャーということでキャンプが注目されているようです。私もキャンプは好きですが、これが防災にも役立つということをNHKが放送していました。楽しみながら防災とは一石二鳥だと思い、番組のテキストであった本書を読んでみました。
本書は2019年6月から7月にNHKの「趣味どきっ!」という放送枠で9回にわたって番組のテキストです。番組の講師として寒川(さんがわ)一(はじめ)さんというアウトドアライフアドバイザーの方が出演していました。本書の「はじめに」に寒川さんの次の言葉が記されています。
「ふだん私たちはインフラの整った環境で生活しています。ところが、災害によって、ひとたびそれらを失うと、生活の質が落ちるだけでなく、心の平穏まで失ってしまう人が少なくありません。キャンプで当たり前のように使う“外遊び”のスキルを知ってさえいれば、インフラが止まってしまっても、安全・安心に暮らすことができるのに……。そう思い、自分が今まで培ってきたキャンプの知識や考え方、スキルなどを、防災に生かす活動をはじめるようになりました。」(6ページ)
たしかに水、電気、ガスなどのインフラが使えるのが当たり前の状況で私たちはふだん生活しています。当たり前過ぎて、そのことを意識すらしていないのが正直なところだと思いました。
火や水への対応、ナイフやロープの活用
本書の内容は、番組の放送回に合わせて「火に慣れよう!」「水を上手に使おう!」「ナイフとロープ」「テントに泊まろう!」「雨・風・気温に対応」などの具体的なテーマごとに分かれています。
「火に慣れよう!」の回では、たき火の楽しさとともに、その準備から後始末までしっかり解説されていたり、「風向きに気を配る」などの注意事項も触れられていたり、実用的な内容だと思いました。また、たき火だけに頼るとずっとたき火をしていることになり、大量の薪が必要になってしまうので、ガスバーナーを併用するのが現実的だと書かれています。「なるほど」と思いました。
ワイルドなコーヒーの淹れ方
「水を上手に使おう!」の回で紹介されている、ドリッパーを使わずにコーヒーを煮出して飲むという方法は初めて知りました。私はふだんコーヒードリッパーと紙のフィルターを使ってコーヒーを淹れていますが、寒川さんはやかんで沸かしたお湯に挽いた豆を入れて20分待ち、やかんを振って遠心力で豆とコーヒーを分離させるそうです。寒川さんがこれをやっている写真もありますが、自分はやってみる勇気がありません。「ワイルドだな」と思いました。
ナイフの使い方を幼稚園児にも
ワイルドと言えば、寒川さんはナイフの使い方を神奈川県の幼稚園で教えているのだそうです。幼稚園児がナイフとは驚きました。
それから本書は「もやい結び」などロープの使い方も詳しく解説されています。ロープワークは救助にも役立つということで勉強になりました。
「風速10メートル」はキャンプ中止の目印
本書を読んで私が共感したことの1つが「風の強いときが一番危険」という教訓です。寒川さんは、風速5メートルと10メートルを基準にするとよいと述べています。風速5メートルでは木の葉や小枝がたえず動き、火の粉が飛び始めるそうです。風速10メートルでは木の幹も揺れ、池にも白波が立つそうです。風速10メートルはキャンプの中止を検討する基準だと思いました。
本書は、キャンプ経験の少ない人向けに書かれていますが、講師の寒川さんの経験から得られた防災にも役立つ工夫やテクニックが紹介されており、楽しむキャンプと防災を一体化させる面白い本です。災害の多い日本ですので、かなり実用的で楽しさを増やす知識が詰まっていますので是非おススメします。