取材を成功させる質問力とは?

鎌田靖 著『最高の質問力』
(PHP研究所、2021年)

元NHK記者が質問の極意を披露

 質問することに対する苦手意識を克服するために読んでいる数冊のうちの1つが本書です。本書は、NHKの記者としての経験が生かされていて、インタビューなどの取材と結びついた質問の仕方が詰まった本になっています。
 本書の著者、鎌田靖さんはNHKの記者としてキャリアをスタートし、報道番組の解説委員やキャスターなどの経験が豊富で、2017年からフリーでお仕事をされています。NHK時代に小、中学生などに時事的なニュースを解説する『週刊こどもニュース』のお父さん役を務めていた経験もあり、ニュースを分かりやすく伝える技法にも長けている方です。

よい質問はよい下準備から

 本書を読んで、まず重要だと思ったのは質問するための下準備のことです。それは「関連本を読む」「専門家の話を聞いておく」「関連する場所に行ってみる」の3つです(58ページ)。NHKの記者にとっては基本中の基本なのかもしれません。ただ、私たちがあまり詳しく勉強していない話題の講演会などで挙手して質問する時のハードルは高いな、と感じてしまいました。しかし、記者というお仕事であれば下準備が当然重要というのは理解できます。

テレビで17秒の沈黙は放送事故か?

 次に印象に残ったのは、テレビ番組のインタビューでは、相手が沈黙した場合に、相手が話し出すまで待つのが鉄則なのだ、ということです(73ページ)。鎌田さんは若い頃、相手の沈黙に耐えられずに自ら話し出し、後で編集スタッフに怒られたそうです。
 逆に、NHKの『クローズアップ現代』で2001年に「高倉健 素顔のメッセージ」という回の放送では、キャスターの国谷裕子さんが、俳優の高倉健さんの17秒の沈黙に耐え、健さん自らが話し出したそうです(74ページ)。健さん、いくら寡黙な人、不器用な人とはいえ17秒は長過ぎでしょ、放送事故でしょ、と思いました。私なら絶対耐えられません。

質問内容を明確に

 本書のうれしいポイントは「お役立ちメモ」という「まとめ」ページがあって、実用に活かせる工夫があることです。たとえば、「質問内容を明確にする」「相手に事前に質問を送付する」「整理が苦手な人は5W1Hを使うと便利」「相手に時間の余裕はあるかを聞いておきましょう」「ウィキペディアから得た情報は対話では控える」などがあげられています(52ページ)。この中では特に「質問内容を明確にする」というのは重要だと思いました。
 質問後の聞き方や受け答えとしては、「あいづち・うなづき」「繰り返し」「言い換え」「声のトーンを調整する」「姿勢」が重要ということです(98~99ページ)。特に「姿勢」ですが、「素直に教えてもらう姿勢は好印象を与えます、少し前かがみ、前のめりぐらいがちょうどいいでしょう。」ということです。これは「なるほど」と思いました。質問をして「ふんぞり返って聞いている」というのはふさわしくないだろうなと思いました。

その分野の本を最低3冊

 さて、本書では、質問のための下準備として鎌田さんが日頃からやっている情報収集術が公開されていて勉強になりました。質問は真剣勝負、きちんと勉強しておかなければ、うまく質問できない、相手はどの程度知っているのか、どれくらい勉強してきたのかを見極めようとしている、と鎌田さんは言います(145ページ)。さすがです。鎌田さんは、質問する分野についての本を3冊読むようにしているそうです。そしてタイプの異なる本が良く、入門書、新書、ハードカバーの本を読んで共通するキーワードを抜き出し、特に入門書でキーワードの意味を押さえるようにします。
 それから新聞は、国内の主要なものを全紙毎日読み、外国のものを英語で、そして日本語版も参考にするそうです。BBCの英語ラジオのニュースも聞くそうです。これらを「衣食住と同じ」ように、日々欠かさないそうです。このあたりは「さすがプロだなあ」と感じました。

ネット社会でも元ネタは新聞が多い

 そして、鎌田さんはSNSやネットもチェックするそうですが、SNSやネットで流れる情報も、元ネタは新聞であることが多いと感じているそうで、基本的な情報源は新聞だと考えておられるようです(153ページ)。ただ、近年ではやはりネットの比重は高まっており、各機関の公式サイトで発表される情報は有効なソースだという述べています(158ページ)。
 本書を読んで、鎌田さんのようなジャーナリストの世界にもネット活用の必要性は高まっているということが分かりました。ただ、ネットで流れる情報の元ネタは新聞であることが多いという指摘はとても重要だと思いました。新聞は今でも信頼性の高いメディアだと鎌田さんは考え、日々、多くの新聞に目を通していることに感服しました。それから、ある分野についてタイプの異なる本を3冊読むという勉強法はとても参考になりました。


 今回は触れることができませんでしたが、本書には、テレビで解説委員やコメンテーターなどの経験もある鎌田さんの伝え方(書き方、話し方)のコツも紹介されており、質問の仕方と合わせて盛りだくさんの1冊になっています。是非オススメします。

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