記憶力を高めるコツを脳の仕組みから解説した本

和田秀樹 著『記憶法大全』
(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2016年)

 いろいろな知識や情報を知っている、覚えているということは何かの試験を受けたり、文章を書いたり、プレゼンをしたりといったことの基本となります。知っている、覚えている事柄を増やすために効率のよい方法はないかと思い本書を読んでみました。
本書の著者、和田秀樹さんは精神科医として多くの著書があり、大学受験のための勉強法についての指南書も書かれています。
 本書を読んでみて、私は今まで「記憶法」というものについてあまり考えたことがなかったことに気付かされました。そのため、本書に書かれている内容はどれもほとんど知らなかった新鮮なことばかりでした。その中から特に参考になったことを5つ紹介したいと思います。

1. 記憶の2タイプ:短期型と長期型

 人間の記憶は、新しい記憶が入ってくるたびにどんどん上書きされていくので、1回しかインプットしなければ1分程度で忘れてしまうそうです(21ページ)。そこでもっと長期的に記憶を保持したいと思うならば、繰り返しインプットすること(復習)と、定期的に想起することを心がける必要があります(22ページ)。試験勉強のために繰り返し復習することは、記憶を強めて長期の記憶にするという意味があります。学生時代にやってきたことは無意味でなかったということが確認できてよかったです。

2. 睡眠は脳を休ませるという意味もある

 本書を読んで「目からウロコが落ちる」という感じがしたのは、睡眠は体を休ませる効果だけではなく、脳を休ませる効果が大きいということです(36ページ)。この点を私は今まで全く意識していませんでした。睡眠不足が記憶力を低下させるという脳科学の研究があるそうです。また、睡眠中は目を閉じているので、視覚から新しい情報が入ってくることはないので、脳の疲れをとることができます。脳は、起きている間には膨大な情報の処理を行っているので、睡眠をとって脳を休ませることが重要だと分かりました。

3. 記憶定着のカギは「目的」と「注意」

 脳のスイッチを押して、情報をグングン取り込むためには、目的を定めて注意(アテンション)を向けることです(48ページ)。鉄道ファンやサッカーファンが車両、駅名、選手の名前を記憶できるのは鉄道やサッカーに注意を向けているから。ある分野を勉強する目的を明確にすると、それに関連する情報に注意が向くので記憶に定着させやすくなります。しかし、放っておいても注意が向くものばかりではないのも確かで、それでも記憶していくためには、努力して注意を向けることが必要になります(51ページ)。あまり興味がわかない分野を勉強する時には、少しでも関心の持てるテーマから攻略していくことがコツになると和田さんは言います。このあたりは受験勉強の指南書を多く書かれてきた和田さんの主張が出ていると思いました。

4. 記憶の3段階:「記銘」「保持」「想起」

本書では、記憶というものを3段階に分けて説明しています。頭に詰め込むインプットの作業が「記銘」、それを保つことが「保持」、覚えたことを思い出すことが「想起」です。この説明が分かりやすくて、とても勉強になりました。後から答えを聞いて「ああ、そうだった」と思い出すことができるのであれば、「記銘」と「保持」には成功しています(129ページ)。社会人になってプレゼンや商談をする際に特に重要になるのは「想起」の部分で、いかに「想起できる量」を増やすかを考えるべきだと和田さんは言います。社会人は「アウトプットを目的としたインプット」が大事だということです(129ページ)。これは樺沢紫苑さんの『インプット大全』にも書かれている見解で、とても重要だと思いました。
和田さんの『記憶法大全』では、「想起力を高める記憶法」が紹介されています。たとえば、①何が必要な情報なのかを自覚して、優先順位を意識しながら覚えること、②ストーリーや自分の体験と結びつけて覚える「エピソード記憶」を重視すること、③繰り返し復習すること、④プレゼンやスピーチなどのリハーサルを行うこと、⑤1つの項目に関連する「周辺情報」を増やして「想起」のきっかけにすること、⑥インプットよりもアウトプットを多くすること、などです。

5. 知識は「加工して」覚えるのがコツ

 さきほどの②「エピソード記憶」や⑤「周辺情報」と一緒に覚えることは、自分なりに「加工された知識」として覚えることです(174ページ)。これによってで、「記銘」と「想起」の両方がしやすくなります。機械的に「記銘」したことをそのままアウトプットすることは単純な「再生」ですが、これは機械の方が得意とする作業で、人間がこれを行うのはとてもたいへんです。スピーチや講演ではシナリオを用意して「記銘」し、リハーサルをすることが重要ですが、単純な「再生」をしようとすると名前や数字が出てこないことに対する焦りが生まれてきます(177ページ)。スピーチや講演では、聴衆にメッセージを伝え、面白いと思ってもらえることが重要で、そのためには「加工された知識」を多くもっている方が有利になると和田さんは述べています(178ページ)。これが本書を読んで最も勉強になったことです。


 本書に書かれている記憶法は、受験勉強や資格試験のための勉強だけでなく、社会人のプレゼン、商談の準備などにも幅広く応用できるものだと感じました。多くの人にオススメしたい1冊です。

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