「生類憐み令」と5代将軍・徳川綱吉の実像に迫る!

塚本学 著

『生類をめぐる政治――元禄のフォークロア―― 』

(講談社 2013年)

徳川綱吉は「犬公方(いぬくぼう)」だったのか?

徳川綱吉が「犬公方(いぬくぼう)」と呼ばれるほど犬を大事にする「生類憐(しょうるいあわれ)み令(れい)」を出して人々を苦しめた時代があるというイメージをもっていました。テレビ番組の影響なのか、小学校時代に読んだ「マンガ日本の歴史」にそういうことが書いてあったのかははっきりしませんが、綱吉の印象はよくありませんでした。

犬だけでなく牛馬、子どもの愛護も

 本書の著者は日本近世史を専門とする歴史学者、塚本学氏です。塚本氏は幕府や諸藩(はん)の史料を検証しつつ「生類(しょうるい)憐(あわれ)み令として一般に理解されるところでは、とくに犬の愛護令が強く印象づけられているが、実際には捨子・捨牛馬の禁令」の方が、犬に関する諸令よりも、早くきびしく、また全国への徹底がはかられもした」と述べています(202ページ)。綱吉による犬の愛護令(あいごれい)は捨子・捨牛馬(すてぎゅうば)の禁令に続く政策として打ち出されたというのです。犬を大事にするあまり人間が苦しめられたという「駄目な為政者」綱吉のイメージは間違っていたということ。たとえ重病になっても子どもや牛馬など生類を捨てるなという一連の政策を綱吉が打ち出していたこと。

全人民の庇護者


 塚本氏は、江戸時代を含む前近代(ぜんきんだい)に残っていた親方層の権力や座頭仲間(ざとうなかま)の法、そして敵討(かたきう)ちなどの私的(してき)制裁権(せいさいけん)の世界を縮小し、幕府だけが全人民(ぜんじんみん)の支配者であり庇護者(ひごしゃ)でもある地位を確立していくプロセスに綱吉の「生類憐(しょうるいあわれ)み令(れい)」を位置づけています(234ページ)。本書を読む前は、このようなことに思い至りませんでした。

江戸期の庶民の日常生活が学べる一冊

 「犬(いぬ)公方(くぼう)」綱吉という悪いイメージを捨てて、国家権力・藩権力の確立と庶民の日常生活に注目して江戸時代のことを勉強していくことの大切さを教えてくれる一冊です。

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