下級武士たちの食糧事情などマニアックな知識も!
東郷隆 著『【絵解(えと)き】雑兵足軽たちの戦い』
(講談社、2017年)
以前、藤木久志さんの『新版 雑兵(ぞうひょう)たちの戦場』(朝日新聞出版、2005年)を読んで、身分の低い兵たちの戦いぶりについての知識をある程度得たのですが、彼らの食事や寝泊まりの様子などが疑問として残りました。身分の低い兵を表す「雑兵(ぞうひょう)」をキーワードとして検索したところ、本書に行き当たりましたので読んでみました。
『雑兵物語』は価値ある史料
本書の著者、東郷隆さんはアフガニスタン内戦を取材した経験のあるジャーナリストで、現在では武器や時代(じだい)考証(こうしょう)に詳しい作家として活動されています。
本書は、戦国時代の下級武士の戦場での心得を書き記した『雑兵物語』という文献を主な史料にして、身分の低い兵たちの戦場での様子を再現した本です。『雑兵物語』は、戦国時代が終わって江戸時代に入って書かれた文献のようです(138ページ)。文章で書かれた『雑兵物語』を豊富なイラストを交えながら解説してくれているところがうれしい1冊です。
お米を目当てに戦場へ
戦場での食べ物事情ですが、地域や時代ごとにバラつきがあるが、最も身分の低い足軽の場合、米が朝2.5合(0.45リットル)、夕2.5合で1日1日5合(約0.9リットル)程度の支給を受けていたが、合戦になると夜の2.5合~5合が臨時で支給されたそうです(156ページ)。
この臨時支給の米を目当てに子供を戦場に連れてくる例がかなりあった模様で、それを禁じるお触れが武田氏や後北条(ごほうじょう)氏から何度も出ていた(155ページ)というのはとても面白い発見でした。また、固形状で水分が少ないパンを食べるヨーロッパの場合と違って、米を食べる日本の兵は1回の食事に手間がかかるというのも大いに納得しました。
インスタント食品の原型!?
それから本書では保存食のことも触れられていました。里芋(さといも)の茎を味噌か塩で煮て干して、それを縄(なわ)にして不意(ふい)の出陣に備えていたのだそうです(160ページ)。これを副菜としてごはんを食べたのだそうです。
他にもねぎ、ごぼう、大根の葉の味噌煮を持ち歩き、湯を足して汁物にして食べたということも面白いと思いました。東郷氏は「現在のインスタント食品の元を、すでに数百年も昔、我々の先祖は開発済みだった」と述べています(165ページ)。
大河ドラマ鑑賞にも役立つマニアックな知識!
本書には、食事の他にも、戦場での排泄(はいせつ)や医療、博打(ばくち)のことなども触れられておりとてもマニアックな知識が得られると思います。表紙に「歴史・時代小説ファン必携」と書かれているのも頷(うなず)けます。本書で得た知識を、大河ドラマを観たり時代小説を読んだりするときに役立てながら楽しんでいきたいと思いました。