「ハーバード流交渉術」の基本コンセプトとは?

御手洗昭治 著『ハーバード流交渉術』
(総合法令出版、2017年)

 人と議論する際、自分の話が通じなかったり、思い通りにいかなかったりして不快な思いをすることがときどきあります。できれば誰とも話さずに、自分のやりたいことだけをして過ごしたいと思うこともありましたが、それでは社会生活をしていくことは難しいので、話し方、聞き方、文章の書き方などを学ぶ必要があると感じています。今回は書店で見つけた『ハーバード流交渉術』という本を読んでみました。


 本書の著者、御手洗昭治(みたらい・しょうじ)さんは社会心理学を専門とする研究者です。ハーバード法科大学院で交渉学を受講したこともあるそうです。本書のタイトルにある「ハーバード流交渉術」を創始したのはハーバード法科大学院の故ロジャー・フィッシャー元教授ですので、御手洗さんは「ハーバード流交渉術」を本場で学んだ方ということになります。

1. 身近な生活場面にも「交渉」がある

 本書を読んで得られた大きな気付きの1つは24ページに書かれていた「交渉は身近なありとあらゆる状況で行われている」ということです。私は今まであまり意識していませんでしたが、家族生活の中でも子どものときから、ほしいものをもらうため、買ってほしいものを買ってもらうために「ねだって」いたのは一種の「交渉」でした。もちろん、ビジネス上の「売り込み」や契約、国家間での外交という「交渉」もありますが、子どもだって一般市民だって何らかの「交渉」とは無縁ではいられないということに気付きました。

2. 「対決よりも和を求めよ」

 次に気付いたこととして、「ハーバード流交渉術」の基本コンセプトは「対決よりも和を求めよ」という考え方だということです(57ページ)。これは日本人にも受け入れられやすいものだと思いました。「和をもってとうとしと為す」という聖徳太子の憲法の言葉が思い出されます。
 「ハーバード流交渉術」の中身は、「一方が勝ち、他方が負ける」ような「限られた利益を奪い合う」ような「ゼロ・サム交渉」ではなく、「ウィン・ウィン型交渉」です(58ページ)。そして、双方のメリットを求めて交渉し、それに向けて多くの条件を提言し合いながら話し合いをするところに特徴があります(59ページ)。

3. ボトム・ラインを見定める

 ただし、「これ以上は妥協・譲歩できない」という線も考えておく必要はあります。この線のことを「ボトム・ライン」と呼びます(72ページ)。自分の「ボトム・ライン」を見極めたうえで、そして、できれば相手の「ボトム・ライン」が分かるのであれば、知りたいところです。双方の「ボトム・ライン」を考慮したうえで、それを超えない範囲で、①お互いのプラスになる共通項目を探り、②共通の関心事に焦点を合わせ、③多くの選択肢を考えていく、という「ウィン・ウィン型交渉」こそが「ハーバード流交渉術」のポイントです。もちろん、お互いにとって公平で、社会的にも公正な結果を得るためにも客観的な基準やコンプライアンスにも配慮すべきです(76ページ)

4. 交渉には「落とし所」がある

 そして、交渉術の世界では「コミットメント」という言葉は「落とし所」という意味で使われているということにも少し驚きを覚えました。でも考えてみれば、「交渉」に「落とし所」があるのは当然という気もしました。


 本書の第4章には、海外でのビジネスや国家間の外交などの参考になる各国の交渉スタイルの解説もあります。強気の姿勢を貫く国、迅速さを重視する国などの特徴が鋭く指摘されています。交渉の際、食事をするときの注意事項など、「交渉」はそれぞれの国の文化と密接に関わっていることも分かって面白く読める本です。

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