「新しい学力」のカギ:読書+発表+対話

齋藤孝 著『新しい学力』
(岩波書店、2016年)

 このブログの1つのカテゴリーとして「学び方/伝え方」があります。大学生の論文の書き方、読書、いろいろなアウトプット法、社会人のプレゼンテーションや話し方などを扱う本を紹介しています。今回は齋藤孝さんの『新しい学力』という本を読んでみました。
 齋藤孝さんは『声に出して読みたい日本語』というベストセラー本の著者です。これまでに齋藤さんの『究極 読書の全技術』をこのブログで取り上げました。今回、『新しい学力』を読んで、特に印象に残ったのは次の6点です。

1. 答えは1つに定まらないのが「新しい学力」の特徴

 本書では2つの学力が対比されています。1つは「伝統的な学力」で、教科書に代表される知識を記憶し、再生できる力のこと。もう1つは「新しい学力」で、課題を解決するために必要な思考力・表現力・判断力を中心とするものです(1ページ)。
 平成元年(1989年)に文部省が「新しい学力観」を提唱して以降、「生きる力」と呼ばれたり、「問題解決型」学力と呼ばれたりしながら、2020年から学校のカリキュラムに本格的に導入されてきています。本書で、齋藤さんは、「新しい学力」の特徴は、答えが1つに定まっていないような問題に取り組んで、思考を進めていく力が「新しい学力」の特徴だと述べています(30ページ)。例えば、アメリカで頻発する銃乱射事件をめぐって「なぜこのような事件が起こったのか」「銃を規制するべきかどうか」「それがテロならばどう対処すべきか」「日本ではなぜこのような事件が起きないのか」などの問いは、答えは1つに定まっているわけではありません。このような問いついて思考を進めていく力が「新しい学力」の特徴というわけです。

2. 教科書は冷凍食品のようなもの

 化学の元素周期表も、世界史の「冷戦」状況も、国語の古典も、教科書に書かれている内容は重要な知識がぎっしりつまっていることは確かですが、齋藤さんはこれを「冷凍食品」に喩えています(95ページ)。解答しなければ食べられないところがポイントで、これを解凍するのが教師や親の感動の役割です。この喩えは秀逸だと思いました。

3. 対話しながら「気づき」を得ていく

 「新しい学力」を身につけていくとき、グループ・ディスカッションやプレゼンテーションなどのアクティブ・ラーニングで学ぶという、学び方の面でも重点が変わってきています。その際、対話によって「気づき」を得るという側面が学び方の1つの要素として浮上してきます。知識を記憶し、再生する「伝統的な学力」と異なる部分です。
 対話しながら「気づき」を得ていくという方法は、古代ギリシャのソクラテスの対話法から伝わっていると齋藤さんは指摘しています(117ページ)。

4. 「発明王」エジソンは、学校教育を3ヶ月しか受けていない

 エジソンについて私はほとんど知りませんでしたが、彼は学校教育を3ヶ月しか受けていないそうです(129ページ)。通っていた公立学校の校長が、空想にふけりすぎていて頭がどうかしているという評価を下していて、エジソンはショックを受けて学校に行かなくなる。そこで母のナンシーが自宅でエジソンを教育し、また、図書館で大量の読書をして知識を獲得していったのだそうです。「発明王」エジソンは単なる天才というわけではなく、たくさん読書していたことを初めて知りました。

5. 読書とアウトプットを組み合わせる

 齋藤さんは「読書は、アウトプットとその評価を前提として行うことで、より一層現代的な、効果のある課題となる」と述べています(179ページ)。例えば、読書してきた成果をほかの学生に発表するという課題を設定し、読書→プレゼンテーション→ディスカッション→次の読書、という流れを作るというのは、すばらしいアイデアだと思いました。

6. 日本の小学校は「発表」という名のプレゼンテーションを重視してきた

 プレゼンテーションは高級な感じがするけれども、日本の小学校は以前から「発表」という名のプレゼンテーションの練習を繰り返し行ってきたと齋藤さんは言います(186ページ)。これが中学・高校では発表の機会が減り、先生の話を聞く受動的な時間が増えてくるという問題があります。中学・高校・大学で発表(プレゼンテーション)の機会を増やそうというのが近年のアクティブ・ラーニングの流れです。


 本書を読んで、「新しい学力」が重視されていく流れがよく分かりました。そして、「伝統的な学力」か「新しい学力」かという2択ではなく、どちらも重要という齋藤さんの提言も分かりやすく述べられていたと思いました。

Follow me!