武士は梅干しを食べる風習がありました!

永山久夫 著『長寿食事典』
(悠書館、2019年)

 コロナ禍で密になりにくいレジャーとしてキャンプに注目が集まっているようです。焚き火を使ってお肉を焼いたりご飯を炊いたりといった経験は楽しいものですが、ガスや電気が普及する以前には人々はどのように調理していたのかに興味をもちました。そんな時、テレビ番組で古い時代の食事復元研究をしている人という触れ込みで永山さんのことが紹介されていました。探してみると永山さんは多くの著書を出しているのが分かり、本書を読んでみました。

古代から昭和時代の食事を復元する!

 本書の著者、永山久夫さんは食文化の歴史を専門とする研究者です。古代から昭和時代の食事を復元して栄養面や特徴などを調べる研究手法の第一人者だということです。
 本書を読んで気付いた第一の事は、「一汁三菜」を基本とする和食は体にいい、長寿を可能にする食事だということです。「一汁三菜」の「一汁」は一杯の汁物(古くは味噌汁)、主菜(メインディッシュ)がひとつに副菜がふたつ。これに主食のごはんと漬物を合わせた6個の食器が膳(ぜん)の上にのっている状態が和食の基本形だということです。自分が料理をする時に「三菜」の部分が足りてなかったなと気付きました。

長生きの戦国武将は意外に多かった!

 第二の気付きは、戦国武将たちの中には長生きだった武将も多くいて、彼らの長生きの秘訣のひとつが食事だったということです。本書の330~331ページには、長生きの戦国武将の一覧表が掲載されていてとても貴重だと思いました。その一覧表で目をひいたのは、やはり徳川家康の75歳という長生きです。彼が天下をとれた要因はいろいろあったと思いますが、やはり長生きで、多くの経験を武器にして味方を増やしたり敵を従わせたりする術(すべ)を身につけたことがあるのではないかと思います。当時の平均寿命は37、8歳と言われていますので(330ページ)、家康の長命には改めて驚かされます。他にも、北条早雲88歳、毛利元就75歳、藤堂高虎75歳、伊達政宗70歳、真田信之93歳、本多正信79歳など、長生きの武将はたしかに多いことが分かりました。

武将たちの長寿法

 永山さんは、武将たちの長寿法の骨子として、①ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富な玄米に近い米を主食にしていたこと、②よく噛(か)んで食べていたこと、③領土拡張や出世などの明確な目的をもって生活し、健康に気をつけていたこと、④戦いのトレーニングなどで体を鍛えていたこと、⑤酒を上手に活用していたこと、⑥季節ごとの旬の野菜や魚などを食べていたこと、⑦早寝早起きのライフスタイルをしていたこと、⑧梅干しを欠かさず食べていたこと、⑨イワシや海藻などカルシウムの豊富なものを常食していたこと、⑩茶の湯を趣味とする大名や武将はカロテンやビタミンCが補うことが出来て、紫外線対策になっていたこと、を挙げています。戦国武将たちの食事は、現代の栄養学の視点から見ても適切だったようです。また、⑧の梅干しですが、梅干しを食べるのは鎌倉武士以来のならわしだったそうです(333ページ)。初めて知りました。

現代人は北斎から学べる

 本書からの第三の気付きは、江戸後期の有名な画家、葛飾北斎の長寿(89歳)を支えたのは、買い食いがしやすい江戸の料理文化だったということです。当時の江戸では、魚介類、豆腐、豆、野菜などを調理して売る店(煮売屋(にうりや))が豊富にあって、これを買ってご飯と合わせれば健康的な食事がとれたのだそうです(468ページ)。北斎は何度か結婚しましたが妻と死別をして、50代半ばからは独身生活でした。そこへ、北斎の娘が離婚をして戻ってきましたが、この娘が料理や掃除をあまりしなかったそうです。食べる時間も惜しんで画を書く北斎と無精(ぶしょう)な娘は、江戸の煮売屋(にうりや)を上手に利用したのだそうです。
 永山さんは、この北斎流の長寿法は、スーパー、コンビニ、デパ地下の発達した現代にも応用できると指摘しています(469ページ)。とても参考になりました。

 本書は題名の通り「事典」ですので、全体を読むというよりは、気になるページから部分的に読んでいくという読み方ができます。本書を読んで私は、和食のバランスの良さ、戦国武将の食事とライフスタイル、北斎が活用した調理済みの惣菜が特に勉強になって、ふだんの食生活にも応用できそうだと思いました。特に「長寿」にこだわらない人でも、美味しくてバランスの良い食事は魅力的だと思いますので、是非おススメします。

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