読書好きな教員のためのこだわりの読書術

堀裕嗣 編『THE 読書術』
(明治図書、2015年)

 このブログでは「学び方」というカテゴリーで何冊かレビュー記事を書いています。これまで本要約チャンネルさんの『「読む」だけで終わりにしない読書術』や樺沢紫苑『学び効率が最大化する インプット大全』など、読書術に関する本を紹介してきました。読書術は鎌田靖さんの『最高の質問力』でも、良い質問をするために必要だとされており、「学び方」の基本であり王道です。今回は堀裕嗣編著の『THE 読書術』という本を読んでみました。

読書がもっている多彩な意味

本書は中学教師である堀裕嗣さんが編者となり、堀さんの他に小中高校の教師6名が著者となっています。読者対象は教師、特に読書好きな教師に向けて書かれています。現職の教師が、自分にとって読書がどういう意味をもっているのか、どのような読書を心がけているのか、教育を実践する際にどのように活かせるのか、などについて各章の著者がそれぞれに論じています。
 本書を読んで分かったのは、読書が多彩な意味をもっているということです。たとえば、

・読書は人生そのもの
・心の渇きを癒す
・本からアイデアをもらう
・心にひびく言葉に出会う

といった読書の効用が述べられています(46~54ページ)。ここに並ぶ言葉から分かるように、本書はふだんから読書に親しんでおり、本の内容を生活に取り入れている教師が執筆者となっています。

本の内容を記録する

 そして、次のような読書術が紹介されています。

「小説やマンガは楽しいから読むのであって、教育がどうのこうのと考えながら読むものではありません。しかし、どうしてもこの言葉を記録しておきたいと思ったときは、とりあえずドッグイヤー(ページの上端を少しだけ折り込むこと)しておきます。そして、後でパソコンの「ブログ下書き」というファイルに書き込んでおくのです。

 それらをブログの文章としてまとめるときもあるし、別のプレゼン用にコピペするときもありますが、いずれにしても、どこかで文章化しているのです。」(54ページ)。

 これは「心にひびく言葉を取り出す」という読書術です。読んでも内容を大部分忘れてしまうのは、あまりにも残念ですので、上記のような方法はとても良いと思いました。この方法を紹介しているのは小学校教師の多賀一郎さんですが、本書ではもう一人、同じような方法をしているということが書かれていました。それが本書の編者の堀裕嗣さんです。堀さんも20年以上前から読書していて引用する可能性のありそうな箇所を見つけると、その箇所をパソコンの専用ファイルに打ち込んでいるそうです(89ページ)。堀さんは本書の他にも多くの本を執筆・出版していますが、それは引用可能性のある文章を日頃から蓄積しているからこそ可能になるのだと思いました。

しっかり選書したうえで精読する

本書では他にも、小学校教師の古川光弘さんが、速読ではなく精読を薦めているのが印象に残りました。速読がいいのか、精読がいいのかは意見が分かれるところだと思いますが、古川さんは本を選ぶ段階でしっかり自分に合った本を選び、買ったらじっくりと読んで多くのことを学ぶことを薦めています(70ページ)。私もこの意見に賛成です。

Twitterは「フロー寄り」、本は「ストック寄り」

 本書を読んで最も面白かったのは、本や情報がもっている価値として「フローとストック」という観点があるという点です。賞味期限がすぐに来るのが「フロー寄り」の本や情報で、いつまでも価値を保ち続けるのが「ストック寄り」の本や情報です(132ページ)。この観点からみると、WebメディアではTwitterなどは「フロー寄り」の情報が多く、Wikipediaなどは「ストック寄り」の情報が多い。それから紙媒体では新聞や雑誌は「フロー寄り」で、本は「ストック寄り」です。中学校教師の渡辺光輝さんは次のように述べています。

「本を選ぶ際には、フローとしての最新のものを追いかけることも大切ですが、それだけでは不十分。むしろ、5年後、10年後も(50年後も?)読むに耐えうる本であるかどうかという指標で選択することも大切です。」(133ページ)

と述べています。そして「ストック寄り」のものにはいわゆる「古典」や「歴史」があることを渡辺さんは指摘しています(134ページ)。「古典」や「歴史」は教師として「明日の授業に役立つ」ようなハウツーにはなりませんが、現代を照らしだし、振り返る力を持っています。この点はとても大事だと思いました。

著名な作家の死後30日以内に代表作を

 最後に、ユニークは読書術として紹介したいのは、ある作家や著者の死後30日以内に、その人の代表作を読むという方法です。この方法は高校教師の山本純人さんが紹介しておられますが、新聞の追悼記事を読書につなげるというもので、「こういう方法もあるのか!」と感心させられました。


 本書は、読書好きの教師たちが日頃から実践している読書術がいろいろと紹介されており、読書術のレパートリーを増やすのに良い本だと思いました。今回は詳しく触れていませんが、本を置くスペースに困らないKindleの活用や、ひと月に本購入に使う金額の目安、読書会、定期講読、読書メーターの備忘録や回想的機能など、読書術の小ワザがいろいろ紹介され、検討されています。是非オススメします。

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