「マンガの神様」は悲劇をもちこんだ!
竹内一郎 著『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』
(講談社、2006年)
手塚の作風を考える
「マンガの神様」と呼ばれる手塚治虫の作品では『火の鳥』や『アドルフに告ぐ』が好きです。ほかにも『ブラック・ジャック』や『ブッダ』なども読みましたが、子どもの頃テレビで再放送されていた『鉄腕アトム』や『リボンの騎士』は苦手でした。手塚というマンガ作家の人物像や作風を知り、「マンガの神様」という称号の意味についても考えたいと思い、この本を読んでみました。
手塚は演劇から多くを学んだ
本書の著者、竹内一郎氏は比較社会文化を専門とする著述家で、『人は見た目が9割』(新潮社、2005年)という「見た目=非言語コミュニケーション」をテーマとした著作もあります。
竹内氏は、手塚というマンガ作家の特徴は「先行するマンガ、アニメ、映画、SF、演劇の技法をマンガという形にコンパクトに納める」表現形式をとったことにあると述べています(152ページ)。
手塚治虫が宝塚歌劇(たからづかかげき)の影響を強く受けていることは有名で私も知っていましたが、手塚が学生演劇に熱中していた(145ページ)ことは本書を読んで初めて知りました。竹内氏は「マンガを描く際、先に脚本を書いてからコマに割っていく」という創作姿勢は、手塚が演劇から学んだものだと分析しています(148ページ)。
手塚の論理的な作劇法
私はマンガを描いたことはありませんが、マンガ家の仕事風景に密着するNHKの番組『漫勉』などを観ていると、脚本を書くことなく「ネーム」(コマ割り、人物配置、台詞などのラフな下書き)に最初から取りかかるマンガ家もいるようです。竹内氏は、脚本を書かずに「ネーム」に取りかかるマンガ家は「絵画的に思考する人種」であるが、「このタイプは、基本的に物語作りが下手である」と手厳しく批判し、手塚はこのタイプとは違って論理的に構築された作劇法をとっていたと指摘しています(148ページ)。
手塚作品と「悲劇」
そして私が「なるほど」と思ったのは、手塚がマンガの世界に「悲劇の導入」を行ったという竹内氏の指摘です(146ページ)。手塚以前のマンガはハッピーエンドを基本とし面白おかしい読み物だったのですが、手塚は悲劇的な幕切れに終わる作品を多く描いたのです。私の好きな『火の鳥』や『アドルフに告ぐ』にも確かに悲劇の要素が満ちていることに気付かされました。
手塚作品への指南書
悲劇という要素に着目しながら、これからも手塚作品を読んでいこうと思いました。さしあたり『火の鳥』の読み直しをしたいですし、映像化もされているようなのでDVDも観てみたいです。
本書は手塚作品をまだあまり読んでいない人が手塚の人物像と作風を知るのにオススメしたい本です。今回はあまり紹介しきれていませんが手塚が導入した映画的な技法について詳しく分析されてもいますし、手塚の「スター・システム」(キャラクターを別作品に登場させるシステム)などについても解説されていますので、是非読んでみていただければと思います。