教師・子ども・親のストーリーを紡ぐ作家!

重松清 著『せんせい。』
(新潮社、2011年)

少年時代の感覚を思い出す

 重松(しげまつ)清(きよし)さんの小説はテレビドラマ化された『とんび』や映画にもなった『青い鳥』などを読んだことがありました。「小学生の時ってこうなんだよな……」と少年時代の気持ちや感じ方を思い出させてくれるような物語が多くて共感できる作家さんだと思っていました。

教師という職業への思い


 本書『せんせい。』は学校の場面が多く描かれます。教師と生徒をめぐる6つの短編が収録されています。本書の「文庫版のためのあとがき」が重松さんの作家としての意欲や方向性を示しているので注目です。
 具体的には重松さんは、教師という職業が大好きで「敬意と共感を示したいと、いつも思っている」ということです(275ページ)。と同時に、教師とうまくやっていけない生徒のことも大好きで「先生なんて放っときゃいいんだよ」と肩を叩(たた)いてやりたいとも思っているそうです。そして、この矛盾(むじゅん)があるからこそ「教師と生徒」を何作でも何作でも描きつづけることができると感じているのだそうです。

重松さんのライフワーク


 そして、自分の墓碑銘(ぼひめい)を決められるなら、こう書いてほしいと述べています。それは「教師の話をたくさん書いて、親の話をたくさん書いて、子どもの話をたくさん書いた男」。こういう教師と子どもと親の物語を描きつづけることが重松さんのライフワークだと自覚されているということでしょう。そういわれてみると、重松さんの作品のほとんどのものが、教師と子どもと親の物語になっていると気づきました。
 本書に収録されている「泣くな赤鬼」も映画化されているようですが、主人公は高校野球の監督をする教師です。この教師の台詞(せりふ)に「教えたり育てたりすることと、選ぶこととは、違うんだよ」というのがあります(219ページ)。野球部の監督で教師というのは、選手を育てるだけでなく試合に出す選手を選ぶ立場でもあります。野球の技術を教えるだけでなく、他の選手と比較し、より能力の高い生徒を試合に出場させる権限をもっているというのは、考えてみれば難しい立場なのかもしれません。野球部の監督をした経験はありませんが、その難しさが少し理解できたような気がしました。

書店で手にとって


 重松清さんの本は、本屋さんに行くと新潮社や講談社などの文庫でたくさん並んでいます。これからもときどき読んでいきたいと思います。そういえば数年前に読んだ『定年ゴジラ』が面白かったことを思い出しました。読み返してみたいと思います。

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