感情が爆発するという問題

森田ゆり 著『しつけと体罰』
(童話館出版、2003年)

 以前、アーロン・L・ミラーさんの『日本の体罰』(2021年)を読み、特にスポーツ指導の場面での体罰の根深さについて考える機会がありました。今回は親が「しつけ」と称して行ってしまう体罰について書かれた本書『しつけと体罰』を読んでみました。

体罰・虐待防止プログラムのテキスト


 本書の著者、森田ゆりさんは日本とアメリカで人権啓発や虐待防止の活動を行ってきた人です。本書『しつけと体罰』は、森田さんが開発した体罰・虐待防止プログラムのテキストとして使用されている本です。
 本書では体罰がなぜいけないのか、体罰の問題性が6つ箇条書きで書かれていて、とても分かりやすかったです。それは、①体罰は、それをしている大人の感情のはけ口であることが多い、②体罰は、恐怖感を与えることで子どもの言動をコントロールする方法である、③体罰は、即効性があるので、他のしつけがわからなくなる、④体罰は、しばしばエスカレートする、⑤体罰は、それを見ているほかの子どもに深い心理的ダメージを与える、⑥体罰は、ときに、とり返しのつかない事故を引きおこす、という6つです(36~42ページ)。私にとって①~⑥は、どれも納得できるものでしたが、特に①と⑤が重要だと思いました。
 ⑤については、アメリカのドメスティック・バイオレンスの研究でも明らかにされてきたことを森田さんは指摘しています(41ページ)。身近な人がこわい思いをしているのを目の前で見ていると、自分がこわい思いをするのと同じか、それ以上の心理的苦痛を覚える、というものです。
 ①について森田さんは、体罰を行った者は「指導に熱心なあまり、つい手がでた」という理由をつけることがあるが、これは実態ではないと言います。そうではなく「実のところ、多くの場合、体罰がふるわれるのは、大人の感情が暴力という形で爆発するからです」と指摘しています(36~37ページ)。このことを認めたうえで、子どもへの具体的なかかわり方や、コミュニケーションのスキルが、親のみならず、教職員や施設職員の研修で提供される必要があと、と森田さんは述べています(37ページ)。

反抗的な子どもと「引き分ける」という知恵

そして、体罰に代わるコミュニケーションのスキルが本書では提案されているところが、本書の良い点だと思いました。本書では10個挙げられていますが、もっとたくさん探すことができると森田さんは述べています。その中で、特に興味をもったのが3つありました。その1つは、反抗的な子ども対しては、勝とうともせず、負けもせず、引き分けることが必要、という森田さんの指摘です(97ページ)。子どもと大人が権力争いをするのではなく、争いから身を引くようにせよ、と森田さんは提案しています。

感情を爆発させない罰


 もう1つは、時間を限定して「特権」を取りあげる、というものです。許しがたい行動を子どもがした時には、それはだめなことだと大人の価値観や信念を知らせる必要があります。しかし、体罰のように、子どもに恐怖を与える行為は、人としての尊厳や人権を傷つけてしまいます。そこで、いつもは許可されている「特権」を時間限定で取りあげることで、反省を促すというものです。一定の時間、スマホを取りあげる、テレビを見せない、などがこれに該当します。一種のペナルティーだと思いますが、体罰とは違います。大人の感情が爆発しないというメリットがあるように思いました。
 最後の1つは、子どもに選択させる、というものです。そして、やってはいけないことを選択肢から除外して、やっていいことの選択肢を2つか、3つの選択肢を与えて選ばせるというものです、これは子どもの自発的な行動を促すものですし、選んだ行動について責任をもたせることで、自分の行動の意味を自覚させる効果があると思います。ただ、実際に行動することが可能なものを選択肢に入れることが大事になるので、無茶な選択肢ばかりでは意味がない、とも感じました。
 

 体罰に代わるコミュニケーションのスキルとして本書で提案されているものは、どれも簡単ではないと思いました。ですが、逆に一番簡単なのは怒りにまかせて怒鳴ったり体罰をしたりすることだと気付きました。それではいけないということは多くの人が感じています。簡単ではないですが、体罰以外のコミュニケーションを探そうと挑戦しているところに、本書の良さがあると思いました。おススメの本です。

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