独学や読書の技術55選 !!

読書猿 著『独学大全』
(ダイヤモンド社、2020年)

「独学」への注目高まる

 「独学」というテーマについては柳川範之さんの『東大教授が教える独学勉強法』などの数冊を読んできました。デジタル情報化が進行し、社会の変化が激しくなってきたことで「独学」の必要性が理解され、また、ネット上の解説動画や学習コンテンツが利用できるようになってきたことから「独学」に注目が集まっているように思います。
 本書の帯には柳川範之さんの推薦文が掲載されており、20万部を超える売り上げを記録していると書かれており、私も読んでみることにしました。

自身の経験からつかんだ独学術

 本書の著者は読書猿さんです。読書猿さんは、昼間は組織人として働きながら、ご自身の独学経験をもとに1997年からインターネットで独自の独学術について情報発信されています。著者紹介によると、幼い頃から読書が大の苦手だったそうです。
 本書は独学に関する55個の技法が解説されており、700ページを超える厚さのある辞書のような本です。思い立った時に、自由に学べる反面、学びの進行に目を光らせてくれる人がいない独学者を援護するために本書は書かれています。
 本書を読むまで私は詳しく考えたことがありませんでしたが、ひとくちに「独学」といっても、学校や塾や予備校に頼らない自学自習、所属機関を持たない独立研究者、社会人の学び直しなど、その意味は多様です。本書では、何を目指す人でも、どの段階にいる人でも、「自ら学びの中に飛び込む者」を「独学者」と想定しています(30ページ)。


 さて、本書で紹介されている55個の独学術のうち、私が特に注目したのは以下の5つです。

1. ポモドーロ・テクニック

 ポモドーロ・テクニックとはキッチンタイマーを25分にセットし、25分の学習と5分の休憩というセットを何度も繰り返すという方法です。短時間の集中作業を繰り返すことがポイントです。キッチンタイマーはケータイのアプリでも構いません。ポモドーロとはイタリア語でトマトという意味で、この方法を開発したイタリア人のフランチェスコ・シリロ氏がトマト型のキッチンタイマーを使用していたので、この名称がつけられました。
 人間の集中力が持続する時間はあまり長くないということは聞いたことがありましたが、25分といえば小学校の授業時間よりも短いので、どうなのかなと最初は思っていました。しかし、試してみると25分あるとけっこうまとまった学習ができることが分かりました。それから、あまり疲れないうちに休憩がとれるので、読書なども結果として長く継続できることが分かりました。私にはとても合っていると思いましたので書斎用のキッチンタイマーを100円ショップで買い足しました。みなさまにも是非オススメします。

2. 文献たぐりよせ

 あるテーマを深く調べようとするとき、そのテーマについて論じた1冊の本を入手した後、その本が引用していたり、参考文献リストに載せていたりする本を入手することで「芋づる式」に関連文献を増やして内容理解を深めていくという方法です(258ページ)。
 最初の本の著者が書いている別の本を入手することも「文献たぐりよせ」になります。著者の読書猿さんは「ゼロから始めようとするな」と述べ、「文献たぐりよせ」という技法によって、既に多くのことに取り組んできた先人の「巨人の方の上に乗る」ことが重要だとしています(264ページ)。私もこれは重要だと思いました。 

3. 掬読(きくどく、Skimming)

 これは、本の重要な部分、自分にとって必要な部分を掬(すく)い取るように読むことで、「書物は1ページ目から順番に、それも一字一句飛ばさずに、読まなくてはならない」という考え方の対極にある技法です。
 小説などは最初から順番に読むのがふさわしいですが、辞典や事典は必要なところだけを探して読むのがふさわしいことを私たちは知っています。本のタイプもいろいろなのです。
 しかし、辞典とは異なる本の、どの部分を「重要」だと判断するのか?
 本書ではこの点を詳しく解説してくれています。著者の立場に立って考えると、主張や意見が何度も繰り返し出てくるのは、著者にとって重要な主張・意見だからと考えることができます。また、何らかの意見を紹介した後で「しかし」という逆接の接続詞が使われている場合、そこに著者が重要だと考える主張や意見を書く場合が多い。それから、「当然~である」「~にちがいない」などの信念を示す言葉、善悪・好悪など書き手の判断が必要な言葉には著者の主観が表れやすい。
 このように、いったん著者の立場に立って、著者が重要だと考えている箇所を中心に掬い取っていくような読み方が「掬読」です。この技法について私は今まであまり意識していませんでした。

4. 問読(Q&A Reading)

 これは、ある本や論文の章見出しを「問いの形」に変換し、その章の本文に問いの答えを探すという読み方です。たとえば、章見出しが「マルサスの罠」となっていれば「マルサスの罠って何?」という問いに変換し、その答えを本文の中に探していきます。このやり方を採用すると、問いに関係が薄い箇所は読み飛ばし、関係の深い箇所を丁寧に読んでいくことになります。そして、答えが書かれている箇所を要約すれば、その章の内容の大筋が理解でき、それをつなぎ合わせれば本の内容を理解することができるようになります(480ページ)。
「問読」のメリットは、①早く読める、②問いの数を自分で調節できる、③本の内容の理解が深まり、記憶にも残りやすい、と読書猿さんは指摘しています(482ページ)。

5. メタノート

 メタノートとは、独学の中で得られた気付きを記録するノートのことで、学習法やセルフコントロールを改善していくための資源として活用できるます(659ページ)。独学では、先生がいないことを想定しなければならないので、学習の行き詰まりや難所を自分の工夫で越えていく必要があります。自分なり学び方を工夫して、改訂していくことが必須であり、自分なりに自由に学び方を変えていけることが独学のメリットでもあります。自分の学びを振り返り、大所高所(メタレベル)から眺めることを可能にするノートを用意して常に書き連ねながら学びを継続することを読書猿さんは推奨しています。

 本書は、今まで読んだ独学術関連の本の中で最も分厚く、内容も詳しい本でした。700ページを超えていますが、値段は2800円+税ですので、ボリュームの割に値段はそれほどまで高いとは感じませんでした。独学術の基本として読書術が想定され、ネット上の情報を吟味する力を重視しているように感じました。今後も書棚において活用していきたい本だと思いました。

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